Latvian Gambit


ラトビアン ギャンビット。1.e4 e5 2.f4 と白がキングサイドの f ポーンを差し出すのを King's Gambit と言うが、Latvian Gambit は 黒の King's Gambit と言えよう。

2...f5 とするのは e5 ポーンと f5 ポーンのどちらも守りを利かせてないため、非常に挑戦的な指手である。奇をてらった局面になりやすく、多くのゲームで驚くべきサクリファイス(捨て駒)が見られる。

マスターレベルではめったに使われないが通信チェスでは愛好者もいる。危険をともないやすいため黒の選択肢として一般的にはお薦めできないが、対策を知らない相手には有効な場合もあるだろう。

もともとは Greco Counter Gambit と呼ばれていたが、ラトビアのプレイヤー(※)の貢献により 1937年に FIDE( 世界チェス連盟 Federation Internationale des Echecs )が Latvian Gambit と公認した。

※とりわけ20世紀初頭にこのオープニングを分析し、心躍るようなゲームで多くの勝利をおさめた Kārlis Bētiņš ( 1867 - 1943年 )。

自分が使わない限り日ごろのゲームでこのオープニングに遭遇することはめったにないだろうが、白番で Latvian Gambit に遭遇した場合、対応の仕方を知らないとライブゲームでは持ち時間を多く消費するだろうし、思わぬ展開に足をすくわれないようにしたい。



1.e4 e5 2.Nf3 f5

e8-h5 ラインが開かれるため、黒キングは攻撃にさらされやすくなる。

2...f5 とするねらいの1つは 3.exf5 e4 として Nf3 を攻めること。しかしその変化さえ疑問視されている。


白3手目は主に5つ。黒なら5つの変化に対応していく必要がある。

3.Nxe5 メインライン
3.Bc4
3.d4
3.exf5
3.Nc3



3.Nxe5

e5 ポーンを取り、次に Qh5+ のねらいがある。黒が対応を取らなければ、4.Qh5+ Ke7 または 4.Qh5+ g6 5.Nxg6 で黒不利となる。




3...Qf6

Ne5 を攻撃しながらクイーンを展開させ、4.Qh5+ のねらいを防ぐことができる。
3...Qf6 4.Qh5+?? g6 で白は Ne5 を失うことになる。

Ng8 が f6 へ展開するのを妨げている面もある。




4.d4

Qf6 から攻撃を受けている Ne5 を守るか移動させる必要があるので、d4 として Ne5 を守る。センターを支配し Bc1 の利きも開かれる。

現在では 4.Nc4 Leonhardt's Variation が有力視されている。
4.d4 との違いは、4.Nc4 fxe4 となった後、適切なタイミングで d3 として 黒の e4 ポーンを攻撃できること、...exd3, Bxd3 となれば白は好都合。




4...d6

センター好位置にいるナイトを追い払う。Bc8 の利きが開かれる一方、Bf8 の利きが妨げられる。

d4 ポーンが支配している c5, e5 を同じく支配することで、白のピースが c5, e5 にくることを妨げられる。

ポーンを進めてナイトを追い払うことはよくある。5th ランクにいるナイトをポーンで追い払えない場合、不利となることが多いので注意しよう。

4...fxe4? は時期尚早、5.Bc4 で f7 が弱くなり黒劣勢。




5.Nc4

最もよい場所へ後退、5.Nd3 または 5.Nf3 とするのは 5...fxe4 で再びナイトを動かすことになり劣る。




5...fxe4

今度は取って大丈夫、exf5 とされる前に取っておくことでセンターの e4 にポーンが残る。

f ファイルが half-open ファイルになるので、黒はキングサイド へ キャスリングした後、f ファイルを活用するねらいもある。

黒は Qh5+ に対して警戒を怠らないこと。

5... b5? 6.Ne3 で b5 ポーンが Bf1 に攻撃され 6...c6 で b5 ポーンを守ると 7.exf5 となる。




6.Be2

Bronstein's Variation 。黒クイーンを g6 へ行かせないようにする( Qg6 は e4 ポーンを守り、Nf6 のために場所をあけ、g2 にプレッシャーもかかるため )。6...Qg6?? 7.Bh5

6.Be2 は次のような柔軟性もある。
Nc3 で e4 ポーンを攻撃できる
必要であれば f3 とできる
...d5 に対して Ne3 から c4 とできる

6.Nc3 有効だが c4 にポーンを進めるのを妨げる。

6.Ne3 Nimzowitsch's Variation




6...Qd8

白からすると「何の目的で?」と思うかもしれないが、Nf6 のために場所を空ける意味と、...d5 とするときにクイーンの利きが加わる。




7.0-0

無難な選択、黒はピースが1つも展開しておらず、ピース展開、キングの安全性で白が好形だが、駒数は同じで黒はまだ十分戦えるので白は油断してはならない。

7.d5
スペースを得るのと 黒 e4 ポーンを孤立させるが、c5 と e5 の支配を黒に明け渡す面もある。




7...Nf6

展開で白に遅れをとりながらも、キャスリングのためにキングサイドのピースを展開させていく。

7...Be7 は 7...Nf6 8.Bg5 を避けることができる。

7...d5?! は 8.Ne5 とするよりも 8.Ne3, c4, Nc3 のように指していく方が良い。




8.f3

e4 ポーンと交換することで f ファイルを開くねらい。黒の展開が遅れていることへプレッシャーをかける。

キングサイドにキャスリングした後 f ポーンを進める場合、斜め前方から相手ビショップに攻撃されないか警戒しよう。

8.Bg5 は自然な手であるが、7...Be7 で避けられるようになる。
8.Bg5 Be7 9.Ne3 0-0 10.c4 c6

8.d5 は 7.d5 に transpose




8...exf3

センターポーンをあきらめ 黒キングがいる e ファイルが開かれるが、f3 ポーンを取ることで時間をかせぐことができる。

黒としては 8...d5 9.Ne5 Nbd7 10.Nc3 となるよりいい。




9.Bxf3

ビショップで取るのが適切。

自分側はキャスリングを済まし、相手がまだキャスリングできない状態であれば、e ファイルを開くことはキャスリングしてない相手にプレッシャーとなる。




9...Be7

キャスリングの準備。キャスリングが遅れると黒は不利となる。




10.Nc3 

堅実な手、黒にキャスリングを許すが活用してないピースを送り出し攻撃に参加させる。1つや2つの駒では攻めきれないことが多いので、より多くの駒を攻撃に参加させていこう。

10.Bh5+!? は黒キングサイドの黒マスを弱くするねらいがある。




10...0-0

ようやく黒もキャスリングして一安心?

Nf6 がいなくなれば白は Bd5+ とできる、...c6 に対しては d5 とできる。
一方 d6, d4 ポーンがあるため、黒は Bc5+ などとできない。

お互い f ファイルやピースをどのように活用していくかここからが面白いところ。

11.Bg5 Nbd7 12.Qe2 Rf7 13.Rad1 Qf8 14.Nb5 Bd8 などと続く。


参考文献
The LATVIAN GAMBIT LIVES! - Tony Kosten
Latvian Gambit - Wikipedia
The Latvian Gambit Revisited, by Prof. Nagesh Havanur
Latvian Gambit - jeremysilman.com
Lowwer Life in the Latvian Gambit Part1 - Stefan Bücker

コメント

匿名 さんのコメント…
なるほどです。
実戦では、あまり見かけないオープニングです… 7手目 B×h5+の場合、g6で防ぎますが攻撃的な相手ですと強引にキングサイドを狙ってきます。将棋の上級者が好みそうなオープニングかもですね。
hitsujyun さんの投稿…
コメントありがとうございます。最近 持ち時間5分のゲームをよくやるようになったため、時々 Latvian Gambit に遭遇します。

この記事を参考にして勝率は悪くないですが、持ち時間を多く消費しますし、あれあれ・・・? といううちに攻めこまれて負けてしまうこともあります。Latvian Gambit を得意にされている方ならかなり善戦できるのではないでしょうか。

>将棋の上級者が好みそうなオープニングかもですね。
そうですね、上級者の方などに好まれるかもしれませんね。
皇帝さんが羽生さんに Latvian Gambit を使って「なにこれ?」とつぶやかれた話は有名です^^
http://www5a.biglobe.ne.jp/~emperor/chapter14_8.html