シシリアン ディフェンス。
1594年 イタリアの Giulio Polerio( 1550~1610年 )により分析されていたが、その時はまだ Sicilian Defence と呼ばれていなかった。
1813年 イギリスのマスター Jacob Henry Sarratt( 1772~1819年 )がイタリア語で
il gioco siciliano( The Sicilian Game )と書かれた言葉を英訳する際に the Sicilian Defence とした。
その有効性が認められるようになったのは1940年代ごろからで、Bent Larsen, Ljubomir Ljubojević, Lev Polugaevsky, Leonid Stein, Mark Taimanov, Mikhail Tal などのマスターが Sicilian Defence の理論と実践に多大な貢献を与えた。
世界チャンピオンとなった Bobby Fischer と Garry Kasparov の成果により、Sicilian Defence は 1.e4 に対して最も勝機があるオープニングとして認められるようになった。
始めは 1.e4 に対して 1...e5 を使う人が多いが中級者ぐらいから Sicilian Defence を使う人が多くなるため 1.e4 プレイヤーは Sicilian Defence の対策が必要となる。
Sicilian Defence の主な種類
Open Sicilian
1.e4 c5 2.Nf3 に対して主に
2...d6
2...Nc6
2...e6
その後 3.d4 cxd4 4.Nxd4 とする
白はセンターポーンと黒の c ポーンを交換することでスペースを得られ、ピース展開しやすくなる。一方黒は2つのセンターポーンと half-open c ファイルを活用できる。
白はキングサイドから攻め込み、黒はクイーンサイドから反撃となることが多い。
1.e4 c5 2.Nf3 から黒2手目の変化
2...g6 Hyper-Accelerated Dragon
2...a6 O'Kelly Variation
など
Anti-Sicilian( 白は Open Sicilian を避ける )
Bb5 Systems
2.Nf3 d6 3.Bb5+ Moscow Variation
2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Rossolimo Variation
2.Nf3 e6 3.d3 白が g3, Bg2 などと続ければ King's Indian Attack へ
2.Nc3 Nc6 3.g3 Closed Sicilian
2.c3 c3 Sicilian( Alapin Variation )
2.f4 Grand Prix Attack
2.d4 cxd4 3.c3 Smith-Morra Gambit
2.b4 Wing Gambit
など
変化が多いためどれを使うか迷うところ。
黒としては 2.Nf3 に対して 2...d6, 2...Nc6, 2...e6 のうちどれか1つを選択し、3.d4 cxd4 4.Nxd4 の後どの変化を使うか選ぶ。Anti-Sicilian に対してはゲームで起こった変化について対策を考えていけば良いだろう。
白としては変化が多くなる 2.Nf3 の Open Sicilian は R1500 ぐらいになってから学べば良いと思う。それまではここで解説する 2.c3 の c3 Sicilian( Alapin Variation )がオススメ。もちろんずっと c3 Sicilian を使っていくのも OK。
Sicilian Defence は d5 支配が重要となることが多いため、d5 支配に注目することを覚えておこう。
1.e4 c5
白がセンターに2つのポーン( d4, e4 )を並べるのを妨げる。
黒は 1...e5 のようにセンターにポーンを進めてセンターを支配するのではなく、...Nc6, ...g6, ...Bg7 などのように周りからセンターを支配しようとする。
白が d4 として cxd4 となれば c ファイルが開かれるので、黒は c ファイルの活用と、...a6, ...b5 とポーンを進めクイーンサイドから攻めるねらいがある。
1...c5 で a5-d8 ラインが開かれクイーンが展開できるようになる。駒が動いたことによる影響はどんなことでも注目しよう。
2.c3
c3 Sicilian( Alapin Variation )。オープンな局面になりやすく白の展開方法はシンプルで理解しやすい。
センターを支配するために d4 とするのをサポートする。
1.e4 e5 2.c3?!( Lopez Opening と呼ばれる )では 2...Nf6! で e4 ポーンを攻撃されると 3.Nc3 とできない白は先手の利を失う( 3.d3 では Bf1 の展開を妨げる )。
一方 1.e4 c5 2.c3 Nf6 なら 3.e5 とすることができる。
黒2手目は主に2つ
2...d5
2...Nf6
2...Nf6
白が Nc3 として守ることができない e4 ポーンを攻撃しながらのピース展開。
3.e5 となれば Nf6 を再度動かすことになり、白はポーンを進められて有利な感じが
するが 3.e5 Nd5 でセンターにナイトがあり黒は問題なし。
2...d5 も良いが白はオープニングで有利を得るチャンスが多く、2...Nf6 の方が強力と言われる。
3.e5
攻撃に対し攻撃で返す防御手段、黒は当然 Nf6 を再度動かすことを強いられる。
ポーンを e5 に進めてスペースを得られ、Nf6 の居場所を奪うことができる一方
d5 の支配がなくなったり、黒に ...Nc6 や ...d6 で e5 ポーンを攻めながらの展開を与える。
e5 ポーンを守る 3.d3 や 3.Qc2 は劣る。
3...Nd5
最適な場所へ移動。センターにあるピースの能力は高い。
3...Ne4??
4.d3 で攻撃されるので悪い。4...Nxf2 5.Kxf2 で白はキャスリングできなくなるが
白優勢。
4.d4
自然かつ最善。cxd4 cxd4 となればセンターに2つのポーン、Nc3 も可能となる。
c1-h6 ラインが開かれる。
すぐに d4 としない指し方もある。
4.g3
後で Bg2 として Nd5 を攻撃する。
4.Bc4
Ng1 を展開する前にセンターからナイトを追いやろうとする( f2-f4 で e5 ポーンを守る可能性を残す )。あまり知られていない変化のため相手に考えさせる効果もある。
4.Nf3
4...Nc6 または 4...e6 と続くことが多く、白は主に 5.d4 または 5.Bc4 と続ける。
4...cxd4
素直に取るのが良い。c ファイルが開かれる。
4...Nc6?! 5.Bc4! Nb6?! 6.Bxf7+!?
5...e6 の方が良いが消極的になる。
4...d6?! 5.Nf3 cxd4 6.Qxd4 e6 7.Nbd2
5.Nf3
黒はナイトを失うため 5...dxc3 とはできない。cxd4 とせず先にナイトを展開。
5.cxd4 の変化に transpose することも多いが、5.Nf3 はより柔軟な指し手となる。
5.cxd4 d6 6.Nf3 Nc6
理にかなっている
5.Qxd4 e6 6.Nf3 Nc6
黒に問題を与えてない
5.Bc4?! Qc7 6.Qe2 Nb6
7.Bb3 d3!
7.Bd3 a2-g8 より劣る b1-h7 ライン上に後退となる
5...Nc6
キャスリングを急ぐことなく、d4, e5 に利きを及ぼすナイト展開。
白は Qxd4 とできなくなった。
5...e6
Nd5 を守るとともに Bf8 の利きを開く。6.cxd4 で白はスペースの利を得るが Nd5 が白の攻めを妨げる。
5...d6
6.Qxd4!? e6 7.Nbd2 Nc6 8.Bb5!? の変化がある。
6.Bc4
この手を指すことで 5.Nf3 とした価値が生まれる。無防備な Nd5 を攻撃しながらのビショップ展開、黒に Nd5 を守らせ、キャスリングも可能となる。
6.cxd4
6...d6 となれば 5.cxd4 の変化に transpose
6...Nb6
センターの好位置から移動して、a2-g8 ラインが開かれるため f7 を狙われることになるが、Bc4 に反撃することでテンポを得る。
6...e6 で Nd5 を守り 7.cxd4 d6 となれば、5...e6 6.cxd4 d6 7.Bc4 の変化に transpose するが、微妙な違いは黒がすでに ...Nc6 としていること。
7.Bb3
f7 へ利きが残る位置へ後退。
7...d5
白に exd6 アンパッサンされることを承知でポーンを進める。
Bc8 の利きが開かれ exd6 に対しては Qxd6 とするつもり。
7...d6
たいてい 8.exd6 と同じ変化になるが、8.cxd4 とすることも可能
→ 8...Bg4? 9.Bxf7+ Kxf7 10.Ng5+ Ke8 11.Qxg4 ※
7...g6 8.Ng5 d5 9.exd6 e6 10.Qf3
7...dxc3
白はポーンを1つ失うが、8.Nxc3 ピース展開で勝る白が良いため、黒は 7...dxc3 としない。
8.exd6
アンパッサンしなければ d5 ポーンが a2-g8 ラインを遮断する。
8.cxd4 Bg4!
※ の時は ポーンが d6 にあったため白は Bxf7+ とできたが今度は d5 にあるため Bxf7+ とできない。この後 黒は ...e6 と続け Bad Bishop が pawn chain の外側にある French Defence の改良形となる。
8...Qxd6
クイーンで取るのがベスト。
8...e6 9.cxd4 Bxd6
典型的な IQP( Isolated Queen's Pawn d ファイルの孤立ポーン )。
ピースの位置が Nf6 ではなく Nb6、Be7 ではなく Bd6 のため黒は攻撃されやすく
白好形。
8...dxc3? 9.Nxc3 exd6 10.Ng5!
8...exd6 9.Nxd4!? Be7 10.0-0 0-0 11.Bf4
9.0-0
cxd4 や Nxd4 とするよりキャスリングを済ましておく。
キャスリング後、dxc3 となれば白はポーンが黒より1つ少なくなる、しかし 9...dxc3 とすると黒はリスクを伴う、10.Nxc3 Qxd1 11.Rxd1 から白は Nb5 そして Be3 や Bf4 などの手が考えられる。
9.0-0 後は 9...Bg4 と Nf3 をピンされることが考えられるので、それを考えた上でキャスリングする必要もある。9.0-0 Bg4? 10.Bxf7+ Kxf7 11.Ng5+ Kg8 12.Qxg4 となる。
9.Na3 dxc3! で黒良し
9.cxd4 Be6!
黒はまだ e6 としてないため Bc8 を e6 に展開し白マスビショップの交換を迫る。
c3 Sicilian では通常白マスビショップの交換は白にとって潜在的な主導権をなくしてしまう。
9.Nxd4 Nxd4 10.cxd4 Be6 で黒良し
9...Be6
...e6 として Bc8 の展開が妨げられる前に、f7 に利きが及び良い働きをしている Bb3 と交換を迫る。
9...Bf5 10.Nxd4! Nxd4 11.cxd4 e6 12.Nc3 Be7 13.Qf3!
9...d3!? 10.Na3 Bf5 11.Nb5 Qd7 12.Bf4
9...e6 10.cxd4 Be7 11.Nc3 0-0
白 IQP の形で黒は Nb6 の位置が良くない。
9...g6?! 10.Ng5 e6 11.Qf3 Qe7 12.Ne4
10.Na3
驚きの手。 ...dxc3 となった時 Nxc3 とできなくなるが、...dxc3 を誘い Qe2 から Nb5 として Qe6 を攻める狙いがある。
定跡で知らなければこの手を指せないかもしれないが白ならば覚えておきたい手。
黒が中級者レベルでも c3 Sicilian を詳しく知らない人が多いため、この局面に達することはそう多くはないだろう。
10.Bxe6 Qxe6 11.Nxd4 Nxd4 12.Qxe4 で白はポーンを失わずに済むが 12...Rd8 で主導権を失う ※2
10.cxd4 Bxb3 11.Qxb3 e6 12.Nc3 Be7
10...dxc3
白の誘いに乗ることになるが自然な手。
10...Bxb3 11.Qxb3 Qd5 12.Nb5 Rc8
黒は 10...dxc3 としなければ消極的になる。
10...a6 白の Nb5 を妨げる手。
11.Bxe6 Qxe6 12.Nxd4 または 12.Re1
10...d3? 11.Nb5 Qd7 12.Bxe6
11.Qe2 Bxb3 12.Nb5 Qb8 13.axb3 e5 14.Nbd4!? などと続く
補足
2...d5, 2...Nf6 以外の黒2手目
2...d6 3.d4 Nf6 4.Bd3 or 4.f3
白にセンター支配を許す。
2...e6 3.d4 d5 4.exd5 exd5 5.Nf3
黒は滅多に 3...cxd4 としない、何故なら 3...cxd4 4.cxd4 d5 5.e5 French Defence Advance Variation で時期尚早の d4 ポーン交換の局面になり、白に早期 Nc3 の可能性を与えるため。
2...Nc6 3.d4 で通常 2...d5 の変化に transpose する。
2...g6 3.d4 cxd4 4.cxd4 d5 5.e5 Nc6 6.Nc3
2...g6 3.d4 Bg7 4.dxc5 Qc7 5.Be3
2...e5 3.Nf3 Nc6 4.Bc4
2...e5 3.Nf3 Nf6 4.Nxe5 Nxe4? 5.Qe2
2...b6 3.d4 Bb7 4.Bd3 Nf6 5.Nd2
2...Qa5 3.Nf3 Nc6 4.a3 or 4.Bc4
2...a6 3.d4 cxd4 4.cxd4 d5 5.exd5 Nf6 6.Nc3
参考文献
starting out: the c3 Sicilian - John Emmsstarting out: the Sicilian - John Emms
THE COMPLETE c3 SICILIAN - Evgeny Sveshnikov
Sicilian Defence - Wikipedia
Sicilian Defence, Alapin Variation - Wikipedia
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