King's Indian Defence


キングズ インディアン デフェンス。黒が Nf6、g7 → g6、Bg7、d7 → d6 の形を作り、白 c4 d4 のポーン形などに対抗する戦法。

白が支配しているセンターに対し、後で e7 → e5 あるいは c7 → c5 とポーンを突いて反撃していく。

名前がカッコイイので、この定跡を知ったプレイヤーは大抵 使ってみたくなるが、閉じた局面でどのように攻めていけば良いか、始めは分かりづらいため、中級者以上( R1500 ~ ) に適している。


" Indian defense(s):1.d4 Nf6から黒Pが1枡前進する戦法の総称。古いルールではPは常に1枡しか進めなかった。そこで黒Pが初手で1枡進む戦法を、チェス発祥の地とされる「インド式」と呼んだ(という説が有力)。だから、1.d4 Nf6の後、黒が早期にc5を突くBenoni、d5を突くGrunfeldはIndianとは呼ばないのがふつうである。" チェス用語小辞典(英和)より引用


主な変化


1.d4 Nf6 2.c4 g6

3.Nc3 Bg7 4.e4 d6

5.Nf3 0-0 6.Be2 e5 Classical Variation
5.f3 Sämisch Variation
5.Be2 0-0 6.Bg5 Averbakh Variation
5.f4 Four Pawns Attack

3.Nf3 Bg7 4.g3 Fianchetto Variation



1.d4 Nf6


Indian Defence と呼ばれる。白 e2 → e4 を妨げているのは 1...d5 と同じだが、初手にポーンを突かず、2手目以降、いろんなポーンの突き方がある。

1...Nf6 とすることで、1...d5 とは異なる展開を招く。

白黒それぞれ選択があるため、自分が望まない局面になる可能性もあるが、各変化において対応できるようにしていきたい。


2.c4


Nf6 が e4 を支配しているため、この時点では e2 → e4 とできないが、c4 とすることで、e5 d5 c5 b5 の4マスを支配しスペースを得る。

d4 c4 2つのポーンを並べることが何故良いか? 始めは分かりづらいかも知れないが、e5 d5 を支配しているのを見れば、黒が e5 d5 にポーンを進めることに影響を与えているのが分かる( c5 b5 のマスも )。

白は c ポーンを有効に使っている状態で、Nc3 などとできる。

c4 としたことで、c2 → c3 で d4 ポーンを守ることはできなくなったが、d4 ポーンは始めからクイーンに守られており、さらに e2 → e3 や Nf3 で守ることができる。

d1 → a4 ラインが開いたため、Qa4+ に黒は気をつけたい。

変化の多い 白2手目は、後述の補足にて。


2...g6


Bg7 とフィアンケットし、h8 → a1 ラインを活用する。

g7 → g6 とすることで、h5 f5 を支配できる一方、h6 f6 のマスが弱くなる。
黒マスビショップがなくなればさらに。

h5 f5 を支配しているが、h5 f5 に白のポーンをぶつけられる攻撃目標となる面もある。

g6 にポーンがあると、白は Bd3 で h7 を攻撃しづらくなるため、この場合 Bf1 は e2 や g2 に展開することが多い。

2...e6 や 2...c5 など、黒2手目で変化が現れる。
それらは別の定跡となるため、別記事で扱う。


3.Nc3


e2 → e4 と続ければセンター支配が増す。

黒は 白に 4.e4 を許す 3...Bg7 と、センターにポーンを進める 3...d5 の選択がある。

白はキングサイドのピース展開が遅れているが、センター支配を優先。
1.d4 オープニングでは 閉じた局面( Closed position )になりやすく
キャスリングを急がないことが多い。
始めはまどろっこしいが、戦略的な面白さがある。

3.Nf3 Bg7 4.g3
Fianchetto Variation。KID に対し白もフィアンケット形にする人気のある変化。単純にキングサイド アタックということにはならず、どのように優位を積み上げていくか始めは分かりづらい。


3...Bg7


4.e4 を許すが、d7 → d6 としてから、後で e7 → e5 あるいは c7 → c5 で反撃する狙い。

白としては Nf6 が動くことによる Bg7 の影響を常に考えよう( 手が進むと忘れやすいため )。

3...d5 とするのは Grünfeld Defence で、こちらも人気がある。


4.e4


自然に指せる手だが、黒の反撃にどう対処していくか、そこから難しくなってくる。


4...d6


e5 c5 を支配、Bc8 が展開可能となる。

d6 ポーンが e7 → e5 または c7 → c5 とするのをサポートする。

黒が 5.e5 としてきた場合
5.e5? dxe5 6.dxe5 Qxd1+ 7.Kxd1 または 7.Nxd1 いずれも白は分が悪い。

4...0-0
可能だがメインラインから外れる。
4...0-0 5.e5 Ne8 6.f4 などの変化も起こりうる。 


5.Nf3


自然なピース展開。5.Nf3 0-0 6.Be2 e5 は Classical Variation。

Nf3 はセンターに影響を与えられる一方、黒に Bg4 とされる可能性もある。

白5手目は、代表的な変化の分岐点で、白としては始め、どれか1つの変化を選べば良いが、黒としてはどの変化にも対応が必要となる。

5.f3 Sämisch Variation
5.Be2 0-0 6.Bg5 Averbakh Variation
5.f4 Four Pawns Attack


5...0-0


無難にキャスリング。定跡的に始めの方は覚えやすいが、ミドルゲームから難しくなってくる。


6.Be2


黒 g6 ポーンがあるため、Bd3 としても h7 にプレッシャーとならない。

Nf3 を守っているため 黒 Bg4 とされても困らない。

6.h3 とするのも可能
6.h3 e5 7.d5 a5 8.Bg5 Na6 など


6...e5


キャスリングを済ませた黒は、早速 反撃。
白に選択を迫る。

7.dxe5 dxe5 8.Nxe5 で白がポーン1つ得するように思えるが
、8.Nxe5?! Qxd1+ 9.Bxd1 Nxe4 で白はポーンを取り返せる( Bg7 が Ne5 を攻撃 )。

8.Qxd8 Rxd8 は Exchange Variation

6...Na6  6...Nbd7  6...c5  6...Bg4
などの変化もある。


7.d5


Petrosian Variation。メインラインは 7.0-0 Nc6 8.d5 Ne7 だが、7.d5 とすると黒は Nc6 とできなくなる。e6 も支配しており、黒は e6 にピースを配置できない。

d4 → d5 とすることで c5 支配がなくなり、そのマスに弱くなる面もある。

センターで白黒のポーンが組み合い、閉じた局面となる。このような局面はオープンな局面より、ピースの使い方が難しくなる。

閉じた局面でどのようにピースを使うか、ポーンを進めるか、始めは定跡や本、動画などを参考に学んだ方がその定跡で戦いやすくなる。

7.Be3 Gligoric System メインラインを避ける


7...a5


クイーンサイドでスペースを得るとともに、白 b2 → b4 を妨げ、c5 のマスを活用できるようにする。

白は Nb5 とできるが、現時点では Nb5 としても意味がない。

7...Na6  7...Nbd7  7...h6 などの変化もある。
7...Nh5 8.g3 f5 9.exf5 Bxf5 10.Ng5 Nf6


8.Bg5


KID で黒がキングサイドを攻撃するのに f7 → f5 とポーンを突く手があるが、Bg5 で Nf3 をピンし、それを妨害する。

Bg5 を追い払うために h7 → h6 とすれば h6 ポーンは弱くなり、さらに g6 → g5 とすると、キングの安全性に問題が出てくる。


8...h6


Bg5 を追い払う。フィアンケットしている時のこのようなポーン突きは、良い時もあれば、悪い時もあるため、安易に行わず、状況で判断したり、定跡を参考にしたい。

8...Na6?! 9.Nd2 h6 10.Be3!


9.Bh4


Nf6 にピンを残す後退( Nf6 は動かせないが、Qd8 は動かせる )。
黒 g6 → g5 を誘う。

白はまだキャスリングしてないため、黒は安易に g6 → g5 として、キングの安全性を弱くしたくない。

9.Be3 も可能だが 9.Bh4 の方が良い模様。このような状況で Bg5 をどこに引くかも状況によるため、安易に Bh4 とすることは避けたい。


9...Na6


活用されてなかったピースを展開。b4 c5 の支配が効果的。ただ、ピースはセンターに近いほど利きの効果を発揮しやすいため、端にあるナイトの効率は良くない。

Na6 により、 a5 ポーンの守りが一時的になくなっていることも気にはかけておきたい。守りがない駒は狙われやすくなる。


10.Nd2


Be2 の利きが開くため、...g5 Bg3 Nh5 の Nh5 を防げる。

白 f ポーンを進められるようになる。
センターが閉じられ、働きが悪かった Nf3 を他の場所で使う。


10...Qe8


Bh4 のピンが外れ、e8 → a4 ラインに利きが及ぶため、Qd8 より良い位置となる。Bd2 と連携できる。

11.0-0 Bd7 12.b3 Nh7 13.a3 h5 14.f3 Bh6 などと続く( 下図 )



黒は Be3+ から Bc5 とする興味深いビショップの使い方がある。
黒 h5 g6 f7 のポーン形はキングの安全性に不安を感じるし、防御が難しくなりそう。ビショップは黒の方がアクティブ。

黒はこの後 f7 → f5 とするポーンブレイクがある。

白はキングの安全性は黒より良いが、センターのポーンが邪魔となり、マイナーピースが全て残っていても、攻めづらい状況。



補足


白2手目変化について

1.d4 Nf6 2.c4


2.c4 とすることで、2...e5 の Budapest Gambit、2...c5 3.d5 b5 Benko Gambit などにも遭遇するようになり、黒の変化が多くなるため、多くの局面に触れて学ぶことも多い一方、白としては覚えることが多くなってしまう。

そのようなことから、白は 2.c4 以外の選択もある。

2.c4 とすれば白が多くの変化に対応しなければならなくなるが、1...Nf6 とした黒も、白2手目から生じる変化に対応しなければならない。


2.Nf3


白は前述の Budapest Gambit、Benko Gambit を避けられる。

白はここから Bg5 とする Torre Attack、Bf4 とする London System、e2 → e3 とする Colle System、Nc3 and Bf4 の Barry Attack など、いろんな定跡の変化があり、黒は多くの定跡に対応しなければならない( 多くの定跡に対応できるという見方もできる )。


2.Bf4


London System や Barry Attack になる可能性。


2.Bg5


Trompowsky Attack
KID プレイヤーが悩まされる定跡の1つかも知れない。

2...g6 とすると 3.Bxf6 で白はビショップペアを放棄するが、黒にはダブルポーンができて厄介となる。

2...e6 とすれば Torre Attack となり、ダブルポーンを避けられるが、KID と異なってくる。

2...c5 も良い手だが KID と異なってくる。

ちなみに 2...d5 としても Trompowsky プレイヤーは 3.Bxf6 としてくるし( 必ずではない )、2...h6?! は 3.Bxf6 で白が良いので気をつけたい。

2...Ne4 という手もあるが、やはり KID と異なってくる。


2.e3


3.Bd3 から f2 → f4 としていく Stonewall Attack になる可能性。
あまり人気がないようだが( 個人的にはお気に入り )、使うプレイヤーが少ないということは、不慣れな局面になるため、黒は油断できない。



補足2


1.d4 g6


1...g6 とするのは Modern Defence。Modern Defence では Ng8 の展開を遅らせるため、1.d4 Nf6 2.Bg5 の Trompowsky Attack を避けられるが、白に 2.e4 とされ、白が c2 → c4 としてこなければ、黒が d6 Bg7 Nf6 の形にすることは KID ではなく、Pirc Defence となる。

KID プレイヤーは 1.e4 に対し Pirc Defence を使えば、キングサイド フィアンケット形で戦えるが、展開は異なる。似たような局面では戦いやすいかも知れないが、白でも黒でもキングサイド フィアンケットばかりだと、飽きるだろうし、様々な局面に触れられない。若人は様々な局面に触れた方が良い。



補足3


1.c4


English Opening に対し、KID 形を使えるのは KID プレイヤーにとっては助かる。


1...Nf6 2.Nc3 g6 3.e4 d6


白が d2 → d4 とすれば KID になるが、白は d2 → d3 とする選択もある。

3...Bg7?! 4.e5 で Nf6 が追いやられるのは避けたい。

3.Nf3  3.g3 の変化もある。


参考文献

the English - David Cummings
fighting the anti-King's indians - Yelena Dembo
The King's Indian Defence move by move - Sam Collins
Indian Defence - Wikipedia
King's Indian Defence - Wikipedia
【チェス定跡解説】 キングズインディアンディフェンス - ニコニコ動画
The King's Indian Defense - Chess Openings with GM Damian Lemos
Chess openings - King's Indian Defence
Fight against White's strong center with the King's Indian Defense! - GM Dzindzichashvili
GM Analysis #23 How to Beat the Kings Indian Defence: The Sokolov Way
Dirty Chess Tricks 30 (King's Indian Defense)

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