Van Geet Opening


ファン へート オープニング。Dunst Opening、der Linksspringer、他、多くの名前がついている定跡。

Dirk Daniël (Dick) van Geet( 1932 ~ 2012年 )は、オランダのインターナショナル マスター( 通信チェスでは グランドマスター )で、1.Nc3 を使い成功を収めた。

1.Nf3 は 1...e5 を妨げ、柔軟性のある初手だが、1.Nc3 は 1...d5 や 1...e5 を妨げられず、c ポーンの前進も妨げるている。

一般的には Irregular opening に分類されている。他のオープニングに Transpose することが多く、そのためか人気はないが、通信チェスでは非常に強いプレイヤーが使っている場合もある。

遭遇することは少ないかも知れないが、見慣れぬ局面になった時など注意したい。


主な変化


1.Nc3

1...d5  1...c5  1...Nf6  1...e5

他にも黒の初手は多く、黒番で得意な定跡に持ち込める場合もあるが、見慣れぬ白の応手に困惑する場合もあるだろう。


1.Nc3


悪手ではないが、先手の利を生かしづらかったり、c ポーンの前進を妨げるため、戦いづらい印象を受けるが、実際それほどでもなく、普段とは少し異なる局面になったり、面白さがある。

いろんなオープニングに Transpose することが多いが、できれば独自の展開に持ち込んでいきたい。

黒として、脅威を感じなくとも油断は禁物。


1...d5


センターにポーンを進め、Bc8 が展開可能となる。
d5 → d4 とすれば Nc3 を追いやり、スペースを得られる。

初手に何を指すか、黒としては迷う。1.Nc3 となることは少なく、白が次に何を指してくるか読みづらい。

1.e4 プレイヤーなら 1...e5 や 1...c5。
1.d4 プレイヤーなら 1...d5 や 1...Nf6 とするかも知れない。

いずれにせよ、黒は柔軟に対応できるが、見慣れぬ変化となった時は気をつけたい。

黒初手の変化は、後述の補足にて。


2.e4


一瞬、?・・・となるが、よく見てみると、1.e4 d5 の Scandinavian Defence で 2.Nc3 とした局面。

黒として困る局面ではないが、選択を問われる。

2.d4 Nf6 3.Bg5 は Richter-Veresov Attack となるが、1.Nc3 を使うプレイヤーは変化球を好むだろう( 2.d4 としない )。

2.e3 e5 3.Qh5!?


2...dxe4


3.Nxe4 で白のナイトがセンターに配置されるが、d ファイルがハーフオープンファイルとなり、黒にとって悪くない。

2...d4 3.Nce2 e5
白としては Nc3 が好まぬ場所に追いやられ、黒の好形を見ると嫌な感じがするが、互角の模様。

2...e6 では French Defence、2...c6 では Caro-Kann Defence、2...Nf6 なら Alekhine Defence に Transpose。このようなことから、1.Nc3 は 1.e4 オープニングに近いと言われる。


3.Nxe4


取る一手に思われるが、3.d3 の Gambit も可能。

黒は次に何を指せるか?


3...Nd7


定跡で知ってなければ気づきづらい手。すぐに Ng8 を f6 に展開すると、Nxf6 からダブルポーンができるが、Nd7 とすればダブルポーンを防げる。

Nd7 で Bc8 の利きがブロックされる面もある。

3...Bf5
Ne4 を攻撃しながらビショップを展開できるが、4.Ng3 で反撃を受ける。
b7 ポーンの守りが外れているので黒は気をつけたい。

3...Qd5
4.Nc3 とすれば Scandinavian Defence に戻る不思議。
Scandinavian Defence を使うプレイヤーにはいいかも知れない。

3...e5
両ビショップの利きが開き、黒は好形に思えるが、4.Bc4 で f7 ポーンにプレッシャーがかかるため注意が必要。


4.Bc4


Ne4 と協力して f7 を攻めようと、Ng1 より先に Bf1 を展開する。

黒は 4...e6 でそれを防げるが、e6 ポーンにより Bc8 を c8 → h3 ラインで展開しづらくなる。

4.d4 としたくなるが、1.Nc3 プレイヤーは 4.Bc4 を好む模様。


4...e6


Bc4 の利きをブロック、Bf8 が展開可能となる。

4...Ngf6!? も可能
5.Bxf7+ Kxf7 6.Ng5+ Kg8 7.Ne6 Qe8 8.Nxc7
シャープな変化。


5.d3


d3 とするなら 5.d4 の方が良さそうに思うが、d3 でセンターの白マスを支配する。

Bc1 が展開可能となる。


5...Ngf6


自然なピース展開。センターにあるナイトは良い働きをするため、白の Ne4 が交換でなくなれば黒に都合が良い。


6.Nf3


ピース展開を進める。

自ら Ne4 を交換する 6.Nxf6 は悪手ではないが好まれない。6.Nf3 の後、黒から ...Nxe4 とされると dxe4 で一時的に e4 ポーンをポーンで守れなくなるが、大丈夫なよう。

6.Qe2 Nxe4 7.dxe4 Ne5! 


6...Be7


0-0 可能となる静かな手。Nf6 を守っているので白に Bg5 とされても平気。

白の方がスペースで勝っており、ピースが多く残っていれば、攻撃もしやすいため、黒としては適切にピース交換を行い、白の利点を減少させたい感じだが、マスターレベルでは安易な駒交換より、駒を活用する。

6...Nb6!?  6...a6!? も良い手。


7.0-0


キャスリングを済ます。
白は黒のキングサイドを攻めやすい感じ。


7...a6!?


b7 ポーンを進めて、Bb7 とするため。白がキングサイドで攻めてくることが考えられるため、キャスリングする前に反撃を準備する。


8.Qe2


黒が Bb7 としてくると、Ne4 に攻撃が加わるためクイーンを展開し守る。
白から Nxf6 とした場合、Bb7 の攻撃が Nf3 に当たるため、Bxf3 でダブルポーンができることも防いでいる。


8...b5


白が 8.a4 としていた場合は b5 の代わりに b6 とするが、白が 8.a4 としてこなかったため、8...b5 とすれば Bc4 を攻撃しつつ Bb7 の場所を空けられる。


9.Bb3


ここしか後退できない。


9...Bb7


e6 ポーンで Bc8 の展開が妨げられる時は Bb7 とすることが多い。
a8 → h1 ラインはポーンでブロックされていないため Bb7 の利きがよく働く。


10.Bf4


Bc1 を展開することで、ルークが連結され、ファーストランクでルークを動かしやすくなる。

10.Bg5 では 10...Nxe4 11.Bxe7 Qxe7 で 白は Bad Bishop が残り良くない模様。

10.Be3?! は Ne4 と Qe2 の連結を遮断するため、10...Nxe4 11.dxe4 Bxe4 でポーンを失う。

10.Be2 は悪くない感じがするが、10...Nxe4 11.dxe4 Nc5 で e4 ポーンが2重攻撃された時に、Be2 が邪魔になり Rd1 として Qe8 を攻撃することができない。


10...0-0


マイナーピースが全て展開したところでキャスリング。

これから駒交換が起きそう。e6 ポーンにより、Bb3 がキングサイドに与える影響は弱まっているが、ナイトと協力して  e6 ポーンにサクリファイスするような場合も考えられるため、黒は気をつけたい。

キングサイドを攻め込んでいくという感じでもなく、ポジショナルな展開( 小さな優位を積み重ねていく )になりそう。

11.Rad1 Re8! 12.Nfg5 h6 13.Nf3 Qc8 14.c3 c5! などと続く( 下図 )



駒交換せずテンションを保っている状況が興味深い。クイーンサイドでは黒に押されがち。この後 黒は、Qc6 で e4 とキングサイドにプレッシャー、Rd8 で d ファイルを支配など。

同じハーフオープンファイル上のポーンでも、e6 ポーンが f7 ポーンに守られているのに比べ、d3 ポーンはピースに守られている状態。



補足


1.Nc3 e5 2.Nf3


2.e4 とすれば Vienna Game になるが、1.Nc3 プレイヤーは 2.Nf3 とするだろう。

e5 ポーンが攻撃されているため、黒は対応を問わえる。


2...Nc6 3.d4 exd4 4.Nxd4


Scotch Game の局面に近いが白は e4 としてない。

4...Nf6 5.Bg5
4...d5 5.e4
4...g6 5.Nd5 などとなる。



1.Nc3 Nf6 2.Nf3


2.d4 d5 3.Bg5 なら Richter-Veresov Attack 、2.e4 なら Vienna Game や Scandinavian Defence のようになるが、 2.Nf3 は一風変わった局面となる。

黒は 2...e5?? とはできず、2...d5 には 3.e3

2...Nc6 には 3.e4 e5 となれば Four Knights Game だが、3.d4 とすることもできる。



1.Nc3 c5


2.e4 とすれば Sicilian Defence の Closed variation になるが、1.Nc3 プレイヤーは 2.Nf3 とする。

2.f4 や 2.d4 の変化もある。


2.Nf3


d2 → d4 とすれば Open Sicilian のようになるが、白はまだ e4 としてない。

黒の2手目は 2...Nc6  2...Nf6  2...e6 など


2...Nc6 3.d4 cxd4 4.Nxd4


先程も似たような局面を見たが、今度は 黒 c ポーン と 白 d ポーンを交換している( 先程は 黒 e ポーンと交換 )。

ここから黒が何を指すかは、Sicilian Defence でどの変化を使っているかによりそう。4...Nf6  4...g6 など


4...g6 5.Be3


一風変わった手。Nxc6 とした後に Bd4 とするアイデア。

1.Nc3 プレイヤーはありきたりな手は好まない。



1.Nc3 e6


1.e4 e6 の French Defence を使うプレイヤーは、1.Nc3 に 1...e6 で対応できる。

1...e6 に対しては、2.e4 や 2.d4 d5 など、French Defence の形に持っていくことが多い模様。


1.Nc3 c6


1...c6 に対しても、2.e4 や 2.d4 d5 3.e4 などで、Caro-Kann Defence に持っていく模様。


参考文献

beating unusual chess openings - Richard Palliser
The chess games of Dirk Daniel van Geet( chessgames.com )
Dunst Opening - Wikipedia
Reddit Opening Week 03 2016 Black vs 1 Nc3 Van Geet Dunst Sleipner Linksspringer
Dirk Daniel van Geet vs Guyt: Paramaribo 1967

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