Benoni Defence


ベノニ ディフェンス。
1825年、Aaron Reinganum による手稿 "Ben-oni, or the Pawn Sacrifice Defence in Chess" に由来している( 原文 ドイツ語 )。
benoni の意味はヘブライ語で「 我が苦痛の息子 」。
※ ベニヤミン - Wikipedia

うつ病に苦しんでいた Aaron Reinganum は、悲しみから逃避するために
1.d4 c5 2.d5( ベノニ ディフェンスのオリジナル )で始まるオープニングを研究し、手稿を残した。

苦しみから生み出されたもの、という意味合いで Ben-oni と名付けられた模様。

現在は、1.d4 c5 を Old Benoni、1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 e6 を Modern Benoni と呼んでいる。白 d4 ポーンに、早期 c7 → c5 とポーンをぶつけるのが特徴的。

白番で Modern Benoni に遭遇するのは多くはないかも知れないが、熟練した黒プレイヤーに苦戦する可能性は高い。


主な変化


1.d4 c5 Old Benoni

1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5
3...e5 Czech Benoni( チェック ベノニ。※ Czech Republic チェコ共和国 )

3...e6 Modern Benoni

4.Nc3 exd5 5.cxd5 d6 6.Nf3 or 6.e4


1.d4 Nf6 2.c4 c5


d4 ポーンを攻撃し、dxc5 を誘うようだが、黒は 3.dxc5 e6 からポーンを取り返せるのと、d ファイルのポーンがなくなることは好ましくないため、白はたいてい 3.d5 とする。

3.d5 となるのは黒も承知で、3...e6 や 3...e5 で反撃する( 3...b5 の Benko Gambit もある )。


3.d5


前述の通り、3.dxc5 は好ましくないため d4 → d5 とポーンを進める。
スペースを得られる一方、3...e6 や 3...b5 など黒から反撃を受ける。

3.Nf3 や 3.e3 とする選択もあるが、Modern Benoni とは異なってくる。

3.Nf3 は Symmetrical English に Transpose

3.e3 cxd4 4.exd4 となれば Caro-Kann Defence の Panov-Botvinnik Attack に Transpose

3.e3 d5
3.e3 e6 4.Nf3 d5 は QGD に Transpose


3...e6


Modern Benoni。ポーン交換からクイーンサイドでポーンマジョリティを得る狙い。

3...e5 の Czech Benoni は後述の補足にて
3...b5 の Benko Gambit は次回の記事で


4.Nc3


4...exd5 5.cxd5 d6 の後 e2 → e4 とできる。

4.Nf3 b5 の Blumenfeld Countergambit を避けられる。

4.dxe6? fxe6
黒はクイーンサイドだけでなく、d e のセンターファイルでもポーンマジョリティを得る。ハーフオープンファイルとなった f ファイルも 0-0 後、活用できる。

4.d6?? Ne4 で白はポーン1つ失う


4...exd5


キングサイドの黒ポーンと、クイーンサイドの白ポーンの交換により、黒はクイーンサイドでポーンマジョリティを得る。

e ファイルが ハーフオープン ファイル となる。

e6 にポーンがなくなれば、d7 → d6 で Bc1 が活動的になる。


5.cxd5


センター に ポーン があれば、センター支配やスペースに影響を与えられる。例えば、d5 ポーンにより、黒は e6 c6 にピースを配置できない。

c ファイルが ハーフオープン ファイル となった。

5.Nxd5
定跡では 5.cxd5 が圧倒的に多いが、5.Nxd5 ではどうなるのか気になる。5.Nxd5 Nxd5 でナイト交換、その後 6.Qxd5 または 6.cxd5 。互角なようだが、5.cxd5 の変化しか知らないと、黒は困るかも知れない。


5...d6


c5 ポーンを守り、c8 → h3 ラインを開く。e5 のマスにナイトを運んで活用できる。

d6 ポーンが Bf8 の活動を妨げるため、Bf8 は g7 → g6 から Bg7 として使う。

d6 ポーンはバックワードポーンとしての弱さがあるため、白から攻撃を受けやすい。

5...Bd6 は Snake Benoni と呼ばれる。
Bd6 を c7 や a5 に回したり、 ...0-0 後、...Re8 ...Bf8 とするアイデア。

ちなみに Snake( 蛇 ) は スウェーデン語では orm で、この変化を考えた スウェーデン の チェスプレイヤー Rolf Olav Martens ( 1942 ~ 2008年 )が自身の頭文字 ROM を入れ替えると ORM になることと、 Bd6 → c7 → a5 の曲がりくねった駒の動きが蛇を連想させるため、その名をつけた。 


6.Nf3


e2 → e4 から e4 → e5 とする時、e5 ポーンをサポートできる。

状況により、Nf3 → Nd2 → Nc4 で バックワード d6 ポーンを攻撃したり、Nf3 → Nd2 から f2 → f3 などの変化もある。

6.e4
先に e2 → e4 としてから Nf3 とすることもできる。6.e4 では f2 → f4 とする変化もある。


6...g6


黒マスビショップで d6 ポーンを守ることはできなくなるが、Bg7 としてより活動的な位置で使う。

白 Bg5 で Nf6 がピンされる可能性があるが、その場合、Nbd7 で Nf6 を守る。


7.e4


d5 ポーンを守り、黒 Bf5 を妨げる。白は両ビショップを展開させやすく好形。黒も両ビッショプを活用できる形で、白と黒のアンバランスな陣形は面白さがある。

7.Bf4 a6 8.a4 Bg7 9.h3 0-0


7...Bg7


h8 → a1 ラインが空いているため、白は Bg7 の影響に気をつけたい。

黒としては バックワード d6 ポーンに気をつけたり、白 e ポーンと 黒 d ポーンが交換されれば、白 d5 ポーンがパスポーンとなるので意識しておきたい。

7...a6 8.a4 Bg4 9.Be2 Bxf3 10.Bxf3 Nbd7


8.h3


Bf1 を d3 に展開させたいので、 h3 で 黒 Bg4 が Nf3 をピンするのを阻止する。

8.Nd2 0-0 9.Be2 Re8 10.0-0 Nbd7


8...0-0


ここまでは定跡で覚えやすいが、ここから黒はどうしたら良いか始めは分かりづらい。

Re8 で 白 e4 ポーンにプレッシャーをかけるのと、後は白の出方に対応する。黒としてはもう少し先まで定跡を覚えておきたい。


9.Bd3


e4 ポーンを守る位置に展開。ただ黒の次手を知らないと驚くかも知れない。

9.Bg5 Re8 10.Bd3 c4 11.Bxc4?? Nxe4! 12.Bxd8?? Nxc3+

9.a4 Re8 10.Bd3 c4 11.Bc2 Bf5


9...b5!


黒も定跡を知らなければ指しづらい手。一見ポーンを失うように思えるが 10.Nxb5  10.Bxb5 いずれも黒はポーン1つ取り返せる。

8.h3 で白は Bg4 を防げたがその分 展開の遅れが出てキングがキャスリングしておらず、黒に 9...b5 を許す。

9...Nh5!? 10.0-0 Nd7 11.Bg5 Bf6


10.Nxb5


b5 ポーンを取るとどうなるか少し分かりづらいが、ビショップよりナイトで取る方が良いらしい。

10.Bxb5 Nxe4 11.Nxe4 Qa5+ 12.Nfd2 Qxb5

10.0-0 b4 11.Ne2 Re8
10.a3 b4 11.Ne2 Re8
10.Bg5 c4 11.Bc2 b4 12.Ne2 Nbd7


10...Re8


11.Nc3 や 11.Nd2 で e4 ポーンを守られるように思えるが

11.Nc3 Nxe4 12.Nxe4 f5 or 12.Bxe4 Bxc3+ 13.bxc3 Rxe4

11.Nd2 Nxd5 12.Nc4 Nb4 などでポーン1つ取り返せる。

10...Nxe4!? 11.Bxe4 Re8 12.Ng5!? h6 13.Ne6! Qa5+


11.0-0


e4 ポーンを守るより、キャスリングするのがメインライン。

11.Bg5 も黒としては嫌に感じる手。
11.Bg5 c4 12.Bxc4 Rxe4+ 13.Be2 Qa5+ シャープな感じになる。


11...Nxe4


ポーンを取っておく。白12手目は

12.Re1  12.Bxe4  12.Qa4  12.Qb3  12.Qc2
など多彩。変化が多いのでこの辺りにくると定跡を覚えづらくなってくる。

黒 Bg7 の利きがよく通っているため、白としては黒マスビショップの交換をしたいかも知れない。

黒は b ポーンが無くなったため、クイーンサイドのポーンマジョリティも無くなった。エンドゲームに向けて気になるのはバックワード d6 ポーン。

オープンファイル1つに ハーフオープン ファイル2つ、ピースを活用しやすい状況だが、どのようにピースを使うのは中々難しい。ピースプレイは Benoni Defence の特徴の1つ。定跡やマスターのゲームを参考にしたい。


補足


1.d4 c5 


Old Benoni 。1.d4 を使っていると時々遭遇する。

定跡を知らなければ、c5 ポーンを取っていいのか? d4 ポーンを守った方がいいのか迷うが、1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 の時と同じく、1.d4 c5 2.d5 がメインライン。

1.d4 c5 2.dxc5 とすると 2...e6 や 2...Na6 はたまた 2...Qa5+ など、慣れない局面に白は翻弄されやすい。

1...c5 とする黒プレイヤーの方がその変化に詳しいので、白プレイヤーは油断できない。ある程度の対策が必要だろう。

1...c5 の Old Benoni から Modern Benoni、 Czech Benoni、 Benko Gambit に Transpose することも多い。

1.d4 Nf6 では 2.Bg5 とされると Trompowsky Attack となるため、Benoni Defence を使いたい場合は、1...c5 とするのも1つの方法。

1.d4 Nf6 2.Bg5 に 2...c5 は悪くないが、3.Bxf6 となれば Benoni Defence とは異なる。

1.d4 に 1...c5 を使う場合、2.e4 とされると、Sicilian Defence の Smith-Morra Gambit になる( 1.e4 c5 2.d4 )ので、その対応も必要となる。


2.d5 d6


2...Nf6 も可能だが、Old Benoni は 2...d6 として Bc8 の利きを開く。Modern Benoni で問題となるバックワード d6 ポーンを Old Benoni では e7 ポーンが守っている。

e7 ポーンがそのままだと黒は戦いづらいようで、リスクもあるが後で e7 → e6 とする方が良い模様。

1.d4 c5 2.d5 の変化では白が c2 → c4 とせず、Nc3 とすることもある。



補足2



1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 e5 


Czech Benoni 。この変化を知らない白は戸惑うに違いない。
e2 → e4 を可能にする 4.Nc3 と指すのが普通。

4.dxe6? と 4.d6?? はどちらも良くないので白は覚えておきたい。
4.dxe6? fxe6
d7 → d5 が可能で黒は良いらしいが、勝敗はまだ分からない、といった感じ。

4.d6?? Qb6 白はポーンを失う。


4.Nc3 d6 5.e4


ガッチリ センターポーンが組み合う。白黒どちらもポーンブレイクしやすい形で、それがテーマとなる。

白 f2 → f4、 b2 → b4
黒 f7 → f5、 b7 → b5


参考文献・動画

starting out: modern benoni - Endre Vegh
Benoni Defense - Wikipedia
Attack and Defense in the Modern Benoni - Bryan Smith
オープニング講座 - ベノニ・ディフェンス : MetalPhaetonチェス戦記
Chess openings - Benoni
Chess Trap 16 (Fischer's Trap in Modern Benoni)
15 Min Chess #133 with Live Comments Benoni Defence
A Detailed Guide to the Old Benoni
A Detailed Guide to the Czech Benoni

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