Benko Gambit


ベンコ ギャンビット。Volga Gambit とも呼ばれる。1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 Benoni Defence の局面から 3...b5 と Gambit する定跡。

ハンガリー人で、のちにアメリカに移住したグランドマスター Pál Benkő( 1928 ~ 2019年 )の貢献に由来している。Volga は、Volga River( ヴォルガ川 )というロシア連邦の西部を流れる、ヨーロッパ州最長の川の名前から。3...b5!? について記事を書いた B.Argunow がロシア人なのか(?)
どういういきさつで Volga の名がついたかは不明。

黒はポーン1つを代償に、クイーンサイドにプレッシャーを与え
有利な状況を目指す。


主な変化


1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 b5

4.cxb4 a6 5.bxa6 メインライン
5.b6
5.f3
5.e3
5.Nc3


4.Nf3  4.Qc2  4.Nd2  4.Bg5

マイナーな白4手目
4.f3  4.a4  4.b3  4.e4

大まかには 4.cxb4 とする変化と、しない変化。
変化が多いため、面白さはあるが、黒側は始め戸惑うかも知れない。


1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5


オープニングで 5th ランクに進んだポーンは、維持できれば、スペースを得たり、相手ピースの動きを抑制したりする効果があるが、反撃も受けやすい。

黒3手目はいくつかあり
3...e6 Modern Benoni
3...e5 Czech Benoni
3...g6
3...d6 Old Benoni 

そしてデータベース的に多いのが


3...b5


Benko Gambit 。4.cxb5 を誘い、さらに 5...a6 6.bxa6 となれば、黒はポーン1つを代償に、b a ファイルの白ポーンにプレッシャーを与えられ、ピースの可動性、連携を生かして有利な局面に持っていこうとする。

白としては、4.cxb5 としてから 4...a6 5.bxa6 のメインラインを選択するか、4.cxb5 a6 から 5.bxa6 以外の手を指すか、4.cxb5 以外の手を使うか。

白からすれば、Benoni Defence や Benko Gambit は厄介に感じるかもしれないが、白黒ともに、これらの局面から学ぶことは多いだろう。

1.e4 c5 Sicilian Defence や 1.e4 e6 French Defence の 黒 c5 ポーンに、b2 → b4 と白がギャンビットしてくる変化があり、手こずることが多いが、Benko Gambit を学べば、それらの似た局面に対応しやすくなるかも知れない。


4.cxb5


定跡を知らなければ 4.cxb5 とするとどうなるか気になるが、4.cxb5 とするのがメインライン。c ファイルが ハーフオープン ファイルとなる。

c4 のマスが空いたので、白は c4 にピースを配置することが可能。

d5 ポーンの守りが1つ減ったが、d5 ポーンはクイーンで守られており、他にも e2 → e4 や Nc3 で守ることができる。白としては d5 ポーンを維持した方が好都合。

4.cxb5 としなければ、4...bxc4 が考えられるが、必ず 4...bxc4 となるわけではない。
前述の通り、白4手目変化は多い。


4...a6


さらにポーンを取ることを誘う。


5.bxa6


5.bxa6 とすると黒のピース展開を助けるようで嫌に感じるがメインライン。
b ファイルが ハーフオープン ファイルとなる( いずれ a ファイルも )。

黒はポーン2つ失ったように見えるが、白 a6 ポーンは取れるため
ポーンの損は1つ。

メインラインを避けたければ
5.b6  5.f3  5.e3  5.Nc3 どれか1つを選べるが
できれば本などでその変化について学びたい。


5...g6


5...Bxa6 も可能だが、a6 ポーンは後で取れるため、先に g7 → g6 としておく。

というのも、黒は 白 a6 ポーンをビショップで取ることが多いが、5...Bxa6 としてなければ、5...g6 6.b3 Nxa6! のようにナイトで a6 ポーンを取ることが良い場合もあるため( Na6 → Nb4 で 白 d5 a2 ポーンを攻撃 )。


6.Nc3


d5 ポーンに守りを加え、e2 → e4 を可能にする。

黒 Bg7 が h8 → a1 ラインにプレッシャーをかけてくるため、Nc3 が h8 → a1 ラインで b2 ポーンをブロックしていることは都合が良い。

定跡では少ないようだが、6.e3 とするのも悪くはない模様
その場合、白 a6 ポーンを取るのが遅れる感じ。


6...Bxa6


白が e2 ポーンを進めた場合、...Bxf1 Kxf1 となれば白はキャスリングできなくなるので、このタイミングで a6 ポーンを取っておく。それでも白は 7.e4 が有効。

a ファイルも ハーフ オープンファイル となる。白 a ファイルのパスポーンは脅威に感じるが、後で黒は a b 両ファイルにメジャーピースを配置、Bg7 も活用してクイーンサイドにプレッシャーをかける。


7.e4


センターの好位置にポーンを配置できる代わりに、7...Bxf1 を許す。

7.e4 Bxf1 を避けたければ、7.g3 の Fianchetto variation もある。
7.g3 d6 8.Bg2 Bg7 9.Nf3 Nbd7 


7...Bxf1


白の 0-0 を阻止することは1つの利点だが、白マスビショップは白にとって Bad Bishop( センターポーンと同色 )なので、白はそれほど困らない。

状況によっては h2 → h4 → h5 とする場合もある。


8.Kxf1


キャスリングできなくなったため、キングの安全性について考える必要がある。この変化では g2 → g3 から Kg2 とする模様。


8...d6


c5 ポーンを守り、白 e4 → e5 を妨げる。

黒のポーンストラクチャーは Solid と言われる。


9.g3


Kg2 でキングの安全性を確保する。0-0 するより手数がかかるため、黒が好位置にピースを展開することを許す。


9...Bg7


白にとって Bg7 は脅威となるため、Bg7 の影響を常に考えたい。

クイーンサイドに Rh8 を回したいので 0-0 を急ぐ。
白が h2 → h4 → h5 としてくる可能性が少し気になる。


10.Kg2 0-0


互いのキングを安全な場所へ。ここまでは定跡を覚えやすいが
ここからどうすべきか、黒としては知っておかねばならない。

状況によるが
Nb8 → Nd7
Qd8 → Qa4 or Qb6
Rf8 → Rb1 などと配置

Nf6 → e8 → c7 → b5
Nf6 → g4 → e5 → c4 などのマヌーバーもある。


11.Nf3


e5 に影響を与える位置に展開。
Rh1 が 1st ランクで横移動できるようになる。


11...Nbd7


同じく e5 に影響を与える位置に展開。
Rb1 とするための場所を空ける。

ここから 
12.Re1  12.h3  12.a4  12.Qe2 などの手があり、難しくなってくる。

12.a4 Qb6 13.Qe2 Rfb8 14.Nb5 Ne8 などと続く( 下図 )



b2 ポーンが Bg7 にピンされているため、白は Ra1 を b1 や a2 a3 に移動させてピンを外す。ただそうしようとすると、a b ポーンどちらかの守りが弱くなり、どちらかのポーンを失いやすい。

黒が Ne8 → c7 としてくることが考えられるため、白は Nf3 → d2 → c4 に運ぶなど。

黒がクイーンサイドで攻めてくるため白は対応に追われる、ハーフ オープンファイル 上にあるポーンは守りづらい。 


補足


Benko Gambit を避ける変化について

1.d4 Nf6 2.Nf3 c5


3.d5 b5 は Benko Gambit ではない。
3.c3 とすることも可能
3.c4 cxd4 は English Opening になる。


補足2


1.d4 Nf6 2.c4 c5 3.d5 e6 4.Nf3 b5


Blumenfeld Countergambit 。Benko Gambit に似ているが異なる。
3...e6 の Modern Benoni の変化から起こる。

Benko Gambit ほど人気はない感じだが、白として油断はできないだろう。


参考文献・動画

The Benko Gambit move by move - Junior Tay
Benko Gambit - Wikipedia
ヴォルガ川 - Wikipedia
The Benko Gambit - Chess Openings with GM Damian Lemos
A Detailed Guide to the Benko Gambit
Vol.37 Roman’s Lab Encyclopedia Of Chess Openings Volume 1
The Blumenfeld Gambit Best Chess Openings - IM William Paschall

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